ENVIRONMENTALCOLUMN 環境情報を知りたい方/環境コラム
残さず食べ切って、食品廃棄物を減らす 〜セカンドハーベスト名古屋、ドギーバッグ普及委員会の試み〜
「いただきます」という言葉には、「いのちをいただきます」という感謝がこめられていると聞いた。いのちをいただくからには、残さずに食べ切りたい。そしてそれは、食品廃棄物を出さないための有効な手立てであることは間違いない。
だが現実には、まだ食べられるのに廃棄されている食品は年間500~900万トン(1日当たり1万4000~2万5000トン)も存在し、廃棄量は食品として生産された農林水産物の5~10%に達するとされている。
捨てずに有効に生かす手立てのひとつとして注目されているのがフードバンクだ。これまで廃棄の対象となっていた容器にさびや傷のある食品、消費期限が近付いている食品、ラベルを貼り間違えた食品、売れる見通しのない長期在庫となっている食品などを譲り受け、福祉関係を中心とした団体に分配し、支援する仕組みである。
セカンドハーベスト名古屋
セカンド・ハーベスト・ジャパンは、東京で2000年に炊き出しのための食材を集める活動から始まったフードバンクだ。セカンドハーベストとは、「2度目の収穫」。1度目の市場では収穫されなかったけれど十分食べられるものを、2度目の収穫で生かそうとの思いで名付けられた。
名古屋での活動が始まったのは2007年。2009年1月からはNPO法人として活動している。この春からセカンドハーベスト名古屋(以下2H名古屋)の事務局長を務める本岡俊郎さんは、長く食品会社に勤務、その経験を2H名古屋に生かしていきたいと語る。
2H名古屋は補助金と会費だけで運営しており、現在専従は本岡さんひとり。荷物が大量に届いたときなど人手が必要なときには、登録している約50人のボランティアに声をかけて、手伝いにきてもらう。円滑に運営するためにも何とか人件費を作り、専従をもうひとり置きたいと考えているという。
食品の受け入れと供給
2H名古屋に提供される食品の量は年間約50トン。愛知県を中心とした食品メーカーなど22社から食品の提供を受けている。これ以外にも、野菜や加工品などが単発で持ち込まれることもある。レストランやスーパーなどからの提供は、まだこれからだという。傷みやすい食品は冷蔵設備や小まめに町中を走り回って集める人が必要だが、どちらもまだ整っていないので、働きかけもしていない。
受け入れられない食品は、賞味期限が切れているもの。生物は種類と量を見て受け入れられるかどうか判断している。
本岡さんは、「これまで提供された食品が余ったことはないですし、需要はまだまだあります」と話す。
供給先はパートナーと呼ぶさまざまな団体で、現在のところ、教会・外国人労働者やホームレスを支援する団体・福祉団体など約40団体となっている。団体ごとに求めている食料の種類や量に差があるため、配分にあたっては内容や量を団体の状況に合わせる必要がある。コーディネート力が要求される作業だ。
例えば、消費期限まで十分時間があるが、少し缶の表面が錆びていて売ることができないからと提供を受けたホールトマトの缶詰。日本の食生活の中では日常的に食べるものではないが、南米やフィリピンの人たちにとっては必需品。外国人労働者を支援する団体の多い名古屋では喜ばれている。また、社会福祉施設や弱者への炊き出しグループなどのすべてのパートナーが必要としているのは、主食となる米だという。
「2H名古屋が最もほしいのは米ですが、米には賞味期限がないこともあり、残念ながら提供されることはほとんどありません。秋に新米ができたころ、残った自家消費米を農家から提供していただく事がありますが、実にありがたいですね」
通常は事務所のある建物の一室を倉庫として使い、受け入れた食品を運び込んでいる。冷蔵施設はなく日光も差し込むので、長期保存はできない。大量に提供された場合は、理解を得ている北部市場の名古屋冷蔵で預かっていただいたり、倉庫を借りたりするが、コストを抑えるためにできるだけ早く配分することを心がけているという。
車と人手がないので、引き取りに来てもらうのが基本。ボランティアの中に自営の運送業者がいるので格安で運んでもらうことや、レンタカーを借りて失業中の若者に日当を渡して運んでもらうこともある。
企業にとってのフードバンク事業
フードバンク事業に取り組む動機は、大手企業と中小企業ではかなり違う。
大手企業は廃棄コスト見越してあらかじめ予算に組み込んでいるため、予算の範囲内であれば廃棄費用を支払うことにはあまり躊躇しない。従って「廃棄物を出さない」とか「もったいない」ということが直接動機には結びつかないことが多く、むしろ「CSR(社会的責任)の一環」として取り組む例が多い。
一方、中小企業の場合は、ごみにしないという環境的な意識や、廃棄コストを削減したいという希望がフードバンクへの提供のきっかけになる傾向があるという。
私なぞはつい単純に、廃棄物を出さないように調整して作ればいいと思うのだが、大手食品メーカーに勤務経験のある人に聞くと、作った食品を売り切ることはまずないのだという。製造の際にある程度まとまった数を作らないといけないことや、季節商品はどうしても返品が多くなるなど、廃棄物が出るのが前提になっている面がある。それなら、それを2HJに持ち込めばいいのに、と思うが、残念ながらまだ日本ではそこが直結していない。
アメリカでは背景にキリスト教文化があり、持てる者が慈善事業や寄付をするのは自然な行為と受け止められ、フードバンクという考え方はすでに社会に広く理解を得ている。日本でフードバンク事業が広がるために、越えなければならないハードルとも言える。
今後にむけた課題
前述したように、食品の提供を希望する団体は多い。本岡さんはもっと多くの会社を回り、フードバンクへの理解を促していくことが第一の課題だと考えている。名古屋でフードバンクへの供給を呼びかけるときの一つの問題点として、大企業は名古屋支店ではなく東京の本社に出向かないと話が進まないことが挙げられるという。
供給先の開拓と並行して取り組まないといけないのは、引き取り先の開拓だ。需要の少ないものを大量に提供された場合に分配し生かし切るためには、豊富な供給先も必要なのだ。
名古屋でこれから取り組もうと計画しているのは、冷凍食品と野菜。冷凍食品を廃棄する場合、1ケース燃やすのに約600円のコストがかかる。それを燃やさずに生かすシステムを作りたいと取り組み始めたところだ。
野菜については、アメリカのように、豊作時に産地で廃棄せずにフードバンクが受け取るシステムを、愛知県という一大農業地帯で実現したいと考えている。
「名古屋では、少量多品種が主流になるだろうと思っています。それに合わせたリーズナブルな仕組み作りを目指していきたい。
地域で取り組むのであれば鮮度の問題にも対処しやすいし、配る先は身近にある。食べ物を扱う以上、供給する側と受け取る側が信頼で結ばれることが前提になるが、地域での取り組みなら信頼に基づくネットワークも作りやすいですから」
ドギーバッグ普及委員会
食品廃棄物の量ということでは、外食を無視することはできない。農林水産省の調査* によると、レストランでの食品ロス率は3.1%、宿泊施設13.6%、宴会15.2%、結婚式場では22.5%となっている。一部のホテルやレストランで堆肥化するなどの試みは行われているが、決定的な対応策はない。食品廃棄物の量を減らすのは容易なことではないということが、こうした状況からも感じ取れる。
そうした中、「外食したときに食べきれなかった料理を、容器に入れて持ち帰ろう。その容器も使い捨てにせず、何度も使えるものを持ち歩こう」と呼びかけ、自分ができるレベルから食品廃棄物を減らし、食料問題を考えるきっかけに、と活動を始めたのがドギーバッグ普及委員会(以下普及委員会)だ。
「500~900万トンという日本の年間廃棄物量は世界一であり、これは世界で1年間に必要とされる食料援助740万トンに匹敵、飢餓に苦しむ3000万人分の年間食料と同等」と指摘する普及委員会は、折りたたみ式のコンパクトな持ち帰り容器『ドギーバッグ』を携帯し、食べ残したら持ち持ち帰って食べ切ることを提案している。
名古屋でも始動した活動について、ドギーバッグ普及委員会名古屋支部長で中京学院大学准教授の小林富雄さんに話をうかがった。
* 調査:農林水産省「食品ロス統計調査(外食産業調査)」2006年
外食には持ち帰り容器持参で
持ち帰り用の容器を持ち歩こうと言われたら、ほとんどの場合、「いくら環境にいいことでも、かさばって邪魔だからイヤ」と言われてしまうに違いない。これを解決するのが、最近発売された持ち歩きしやすい容器だ。
普及委員会がすすめている容器は、繰り返し使えて折りたたむと幅約1.5cmとコンパクト。1枚のポリプロピレンを折りたたんで組み立てるため、継ぎ目がない。それゆえ横にしたり、乱暴に持ち歩いたりしなければ、水分のあるものも入れられるというすぐれもの。
さまざまなデザインのドギーバッグが販売されているのもうれしい。写真にあるストライプの容器はベネトンのもの。幅11cm×奥行11cm×高さ15.5cm、たたんだときの厚さは約1.5cmで、シリコンのバンドでとめて携帯する。価格は税込みで500円。他のメーカーから、これより大きなサイズのものも販売されている。
「食べ残した物を持って帰るのは、どうしても格好悪いという感覚が抜けない。このドギーバッグは、持って帰りたい人の背中をちょっと後押しするものです」
持ち帰りの基本原則
ドギーバッグを広げていくために欠かせない要素として挙げられるのが、外食のお店の人の考え方が変わっていくこと。持ち帰って以後の保存が悪くて食中毒になったり、料理してから時間が経ったために味が落ちたりすることが不安で、外食店は持ち帰りにどうしても腰が引ける傾向にある。
「外食店に持ち帰りについての正しい知識を伝えていくことは、ドギーバッグの普及に欠かせません。食品衛生法上は問題はないですし、持ち帰る時点での所有権は消費者にありますから、そこから先の責任を持つのは、基本的には消費者。消費者にも持ち帰るにあたっての基礎知識が必要になってきます」
知識がないところに責任を押しつけても、普及していくのは難しい。消費者の理解を促すために、小林さんたちは次のような内容の基本原則(ガイドライン)を作った。
▼ 持ち帰りの基本原則(概要)
食中毒は細菌の増殖を防ぐことが基本。従って持ち帰りの基本原則は、細菌を「つけない」「増やさない」「殺菌」の3 つに集約される。
1)細菌をつけない:ドギーバッグも手も清潔に。できるだけ小分けに。
2)細菌を増やさない:細菌が増殖する要素は、水分・温度・栄養。水分を取り除き、冷ましてから詰める。真っ直ぐ帰宅。
3)細菌を殺す:まっすぐ帰宅できないときは殺菌シートを利用。火を通して食べる。殺菌などの効果のある調味料を活用。
かつては、常識だったことばかり。親から子へ伝えられるはずだった生活の知恵とも言える。親から子へ、ではなく、ドギーバッグを通して伝わることには少しさみしくもあるが、この時代らしさとも言える。ドギーバッグの役割のひとつに挙げてもいいのかもしれない。
名古屋からの発信へ
動き始めたばかりの名古屋支部。名古屋らしい活動もしていきたいと小林さんは力を込める。
「名古屋はハレ(非日常)の場とケ(日常)の場の差が極端です。家では賞味期限切れのものでもバンバン食べているのに、外に出るとなかなか残り物を持ち帰ると言いだしづらいのは名古屋人気質でしょう。実は数字にもはっきりそれが表れています。食品ロス統計で最も多いのは結婚式場から出る食べ残しですが、東海地区の量が一番多いという結果が発表されています。
こうしたことに名古屋人なりの解決策を探せるようなことを提案していけたら面白いですよね。食べ方の提案にもなっていきますから」
名古屋ならではの喫茶店文化も取り組みながら、何か発信できたらと思索中だという。
「ドギーバッグを通して提案したいのは、ただ持ち帰ろうということではなく、食べ残さないようにしようということ。そこから、食べ物を大切にする文化を共有していきたいのです。
僕らと同世代のコンビニでバイトした事があるような人たちは、食品をどんどん廃棄している現状を知っている。そうしたことが今の食文化や食習慣に与えた影響は、少なからずあるのではないかと思っています。だからこそ、廃棄物の問題を身近に感じ、『大切にいただく』という日本の食文化も含めて伝えていくような活動していきたい。そのために、ドギーバッグをツールとして使い、新しい文化を作っていくような思いで取り組んでいきたいですね。それもできるだけ楽しく」