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ごはんと未来を届ける。「こども食堂」を全力で応援する仕組みとは

取材・文 (取材・文=松橋かなこ)
  • SDGs

全国的に増え続けているこども食堂。2012年に東京都で産声をあげて、2024年2月時点のこども食堂の数は9132カ所(※)にまで広がった。こうした変化と共に「こども食堂を支援する団体(中間支援組織)」が誕生し、その活動が注目を集めている。

こども食堂を応援する仕組みとはどのようなもので、そこにはどんな想いがあるのだろうか。今回は「愛知子ども応援プロジェクト」の代表理事である藤野直子(ふじの・なおこ)さんにお話を伺った。
(※)出典(認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ)

5つの「届ける」で、ひとりも取りこぼさない社会を作る

「子ども達を支援する活動がしたい」。愛知子ども応援プロジェクトは、2017年8月に藤野さんが所属している名古屋名東ロータリークラブの活動として始まった。

活動当初から、こども食堂など子どもに関わる活動をしている人達を支援する「中間支援組織」を構築してきた。

その後、新型コロナウイルス拡大によって、緊急食糧支援活動のニーズが増大。2021年10月に任意団体「愛知子ども応援プロジェクト」に移行し、2022年5月に一般社団法人格を取得した。

2024年現在、同団体では5つの「届ける」事業を行っている。それは、「ごはんを届ける」「教育を届ける」「仕事を届ける」「実家基金」「まちかど保健室」だ。

ごはんを届ける事業では、企業から寄付された食料を地域のこども食堂に配る活動をしている。現在は愛知県内250団体が登録していて、筆者が訪れたときには合計1580キロのお米を名古屋市・豊田市・豊川市・一宮市など計15カ所のハブステーションに届ける準備中だった。

また、同団体では、教育や仕事を届ける事業にも熱心に取り組んでいる。そこには、「多くの子ども達に学ぶことの喜びを知ってほしい」という想いがある。「学ぶことの楽しさや嬉しさを知ると、ブレない「芯」ができて、そこから人生を切り開いていける」と藤野さんは語る。

現在注力している「実家基金」では、「実家が用立てる」ように、手元にお金がなくて困っている家庭をサポートしている。

この基金の特徴は、登録団体がつながりを持っている家庭を、登録団体を通じて支援するということ。「その場限りではなく、顔の見える関係やつながりを大切にしたい」と藤野さん。

基金の利用目的は「修学旅行のお小遣い」や「部活動に必要な道具」などさまざまだ。基金の主旨は「行政がサポートできない狭間の部分を温かく支援する」ということ。数千円から数万円の費用を支援することで、子どもの意識や行動は大きく変わるという。

2022年10月からスタ―トし、これまでに40件近くの利用があった。孤独や孤立を防ぐことが最も大事で、「基金や支援品などは『つながり続けるためのツール』に過ぎない」と藤野さんはきっぱり言い切る。

「地域の居場所」としてのこども食堂
食料支援の拠点になっている「ハブステーション」
企業などから寄付されたお米は、こども食堂から「手渡し」で届けている

子どもの支援に関わる人達を心から応援したい

ロータリークラブから生まれた同団体の大きな特徴は、企業との多様なつながりがあること。

そのひとつとして、株式会社名鉄ホテルホールディングスが開催している「ハッピークレヨンプロジェクト」がある。

同プロジェクトは、ANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋とセントレアホテルでのランチビュッフェにこども食堂の子ども達を招待するというもの。おいしい料理を楽しむだけでなく、ホテルやレストランなどで働く人達との交流や体験も行っている。

過去のプロジェクトの参加者のなかに、ヤングケアラーの中学生の男の子・B君がいた。B君には、うつ病を患う母親と妹がいて、母親の看病のために学校も休みがちだった。週1回、こども食堂が主催する学習支援に通っているときに、このプロジェクトに誘われた。

ビュッフェの当日、B君はこども食堂の運営者と待ち合わせをして、特急列車に乗ってホテルの会場へ。B君は、日常から離れて、料理やその場の雰囲気を満喫した。そんな楽しい一日を過ごした後、B君はこども食堂の運営者に「定時制高校に行きたい」とポツリとつぶやいた。

その後、B君は一生懸命に勉強して、定時制高校に見事合格。この報告を聞いたとき、藤野さんは周りのスタッフと共に涙を流して喜んだ。当時を振り返りながら「きっかけさえあれば、子どもの人生はいつからでも変えられる」と藤野さんは熱く語る。

同プロジェクトはこれまでに48回開催し、延べ960人の参加があった。B君のように、これがきっかけで意識が変わり、新しい一歩を踏み出した子どもも多いという。

食事を味わう子ども達
外食の機会を楽しむ親子

子どもの支援に関わる人達を心から応援したい

2017年の活動当初から、藤野さんはこども食堂へ積極的に足を運び、現場の様子をみてきた。

「こども食堂など地域で活動している人達がいなければ、支援を必要とする子ども達に届かない。その意味では、現場で活動している人達をとてもリスペクトしていて、心から応援したいと思っています」(藤野さん)

同時に、活動に携わるなかで、思いもよらない悲しい事態に遭遇することもあったという。「子どもの近くに、信頼できる大人がひとりでもいれば状況は確実に変わるはず」と藤野さん。

子どもを授かり、産み育てるというのは「奇跡」の連続のようなもの。大切な命を地域のみんなで支えていきたいーー。そんな想いで、藤野さんは活動に日々励んでいる。

取材の最後に、藤野さんに「今後の展望」について聞いてみると、こんな言葉がかえってきた。

「食料支援は継続しながら、これからは『経験の格差』の是正や進路指導にも力を入れていきたい。子ども達が成長していく中で、困ったときに頼れる存在であり続けたいですね。そのためにはいろんな人達の力が必要で『みんなの余力が集められる仕組み』を作りたいです」(藤野さん)

子ども達が抱えるさまざまな悩みに柔軟に寄り添えるように、医者や保健師、公認心理師、塾の講師など専門家とのネットワークも現在構築中だ。

また、同団体は、2024年3月に休眠預金事業「居場所のインパクト可視化を通じた地域活性化事業ー居場所と地域のエコシステムの同時強化ー」に採択された。これから3年間かけて、地域の多様な居場所を発掘し、居場所の存在を伝えていく活動を行う予定とのこと。

このエコシステムが実現するためには、地域の中で「できる人」が、労力・時間・お金など「できる範囲」で協力することが必要だ。「自分自身も何か協力したい」という方は、ぜひ団体ホームページを確認の上、問い合わせフォームから連絡を。

子どもと子どもを取りまくすべての大人や社会が豊かになるためにーー。藤野さんは、スタッフや支援者、登録団体と共に、今日も新しい試みに挑戦し続けている。

名古屋市内の高校での「朝ごはんプロジェクト」
助成金・協賛金で購入した「キッチンカー」は子ども食堂のレンタル用に利用
東海3県の運営団体による「こども食堂TOKAI ONE TEAM NETWORK」

■一般社団法人 愛知子ども応援プロジェクト
https://www.n-kd.jp/column/19567.html