ENVIRONMENTALCOLUMN 環境情報を知りたい方/環境コラム
ミジンコを採取して観察する 小さな生き物から環境について考える
動物プランクトンのミジンコ。漢字では微塵子と書く。この水の中で暮らす微細な生き物に、どんな印象を持っているだろうか。じつは、私たちの近くにも生息している、自然の生態系において欠かせない存在なのである。ミジンコの世界を知ることは、環境について学び考える一つのよいきっかけになると思う。手製の道具を使ってミジンコを採り、自宅で観察してみたのでそのやり方を紹介したい。
ミジンコとはどんな生き物か
ミジンコという生き物に興味を持ったのは、ある時にインターネットでミジンコを採取し、観察している記事を読んだことだったと記憶している。まわりの人が知らない未知の世界を、自分の目で確かめてみたいと思った。それから早速、ミジンコについて書かれている本を探して読んでみた。
花里孝幸著『ミジンコはすごい!』(岩波書店)によると、ミジンコは多細胞生物で、神経を持っている。一口にミジンコといっても、そこには数多くの種類がいる。大きさは、小さくても0.2ミリあり、大きなものになると4ミリを超える。ミジンコは、分類学的にはエビやカニと同じ甲殻類に属する動物で、生態学的には動物プランクトンの仲間になる。動物プランクトンの多くは、泳ぐことはできるが遊泳力が弱い。だから、流れのない水がよどんでいる池や湖などに多く暮らしている。
ミジンコは、植物プランクトンを主な餌とし、単細胞の微生物である原生動物や細菌のバクテリアなども食べている。一方で、魚やエビ、ヤゴ、アメンボなど多くの生き物が、餌として利用している。寿命は、室内で飼育する水温23度の環境で1カ月くらい生きるというが、その長さは水温の違いによって大きく変わる。しかし、自然界では捕食者に食べられるなどの危険が多いため、寿命をまっとうする個体はほとんどいないらしい。ミジンコは、ふだんはメスしかおらず、交尾をせずに子どもを産む。くりっとした目を持ち、丸みをおびた体がかわいらしい、興味を覚える生き物である。
プランクトンネットを作る
ミジンコを観察するためには、捕まえるための道具が必要となる。それが、プランクトンネットだ。じつは、昨年もこのネットを自作し、近くの池や川のよどみでミジンコを採取した。その時の経験をふまえて作り方を紹介したい。作るのは簡単だ。材料は適当なものでよく、100円ショップでほとんどを買い求めることができる。作り方は、インターネットで調べればたくさん紹介されている。
100円ショップで、洗濯機に取り付けるゴミ捕りネット、たこ糸、プラスチックの小型の化粧水ボトルを購入した。それと、自宅にある輪ゴムとクリップ。あとは、糸を通すリング付きの釣り用の重り(5~10号。重さは適当でよい)。これは、インターネットの通販サイトで入手した。用意するのはこれだけである。
作り方は、まずゴミ捕りネットの先端の部分をはさみで切り取る。そこに、ふたを外した化粧水ボトルの口を通し、輪ゴムでしばって固定する。次に、このネットの広い口の部分に重りを通したクリップを取り付ける。重りは1つでは軽いので2つ付けた。そして、ネットの口の中央部分に十分な長さ(数メートルくらい)のたこ糸を結ぶ。これで完成である。ほかの物を使っても作れるし、もっとうまく出来る方法があるはずなので、工夫してみてほしい
ミジンコを採取してみよう
名古屋市内には、多くのため池がある。その一つの明徳池(名東区)に行ってみた。この池は、ヘラブナやコイが泳ぐ魚の釣り場となっており、岸辺の一部はコンクリートで固められている。池の水は、緑に茶を混ぜたような色をしていて、透明度は50センチもないくらいに濁っていた。岸近くの浅いところには、じっとしているオタマジャクシが何匹もいる。水面を滑るようにアメンボが移動し、その下をメダカがすいすいと泳いでいた。トンボも飛んでいたから、池の中には幼虫のヤゴもいるのだろう。釣り場として整備されていない岸辺のあたりは木々が生い茂り、背丈の高い草々が密集する水際のあたりからはカエルの低い鳴き声が聞こえてきた。この池には、多くの種類の生き物が生息し、複雑な食物連鎖が存在している様子がうかがわれた。
階段状になっている護岸からプランクトンネットを使い、水の中の微細な生き物を採取する。ネットを振り子のように前後に揺らし、岸から勢いをつけて沖に向かって放る。そして、着水したらゆっくりたぐり寄せる。ここで大事なのは、ネットを投げる前にボトルの中に池の水を十分に満たしておくことである。そうしないと空気の入ったボトルが水面に浮いてしまい、ネットが水中に沈まずプランクトンをうまく採り集めることができない。ネットを放っては引く。この動作を十数回繰り返したら、ボトルに入っている池の水を別に用意した空のペットボトルに移す。そこに池の水を適量加えたら、プランクトンの採取は終わりである。採取に行く際はできれば複数で行くなど十分安全に気をつけてほしい。
顕微鏡で観察してみる
採取した池の水を自宅に持ち帰ったら、中をよく見てみよう。跳びはねるように泳いでいる、小さな生き物はいないだろうか。今回は7月中に2度、明徳池でプランクトンネットを引いた水を持ち帰った。それぞれに少なくとも1匹ずつ、元気に動きまわる体長0.5ミリくらいの動物プランクトンと思われる生き物がいるのを確認した。
この生き物の正体を確かめるため、小型のハンディ顕微鏡で調べてみることにした。顕微鏡は、もしあれば学校の理科室にあるようなものをおすすめする。ほかに用意したのは、透明な底の浅い容器。これは、スーパーマーケットで売られている総菜が入っていたプラスチックの入れ物を利用した。それと、100円ショップで売られているスポイト。あとは、理科の実験で使うスライドガラスとカバーガラスで、これらは通販サイトで購入できる。
ペットボトルの中にいる生き物は、微細なうえに敏しょうなため捕まえるのが難しい。だから、ペットボトルの中に入っている池の水を、用意した透明な容器に少量ずつ移し、その中に動いている生き物がいないか目視で確かめる。生き物がいるのを確認したら、スポイトで水と一緒に吸い取ってスライドガラスに水滴とともにのせる。この部分は時間と気力を要するので、途中で休みを取りながら行うのがよいと思う。
顕微鏡で観察する前に忘れてはいけないことがある。微細な生き物を含む水滴をのせたスライドガラスに、カバーガラスをかぶせなければならない。その際には、この生き物がつぶれて傷つかない、それでいて動かないよう固定するくらいのすき間を、スライドガラスとカバーガラスの間にあらかじめ作っておく必要がある。その一つの方法が、前掲した『ミジンコはすごい!』に紹介されている。
まず、スライドガラスの上に2枚のカバーガラスを少し間隔を空けて並べる。この2枚のカバーガラスの間の空いたところにスポイトで生き物を水滴とともにのせ、カバーガラスをかぶせるというやり方だ。ここで、土台となるカバーガラスの枚数を増やす、たとえば2枚ずつ重ねて置けば、スライドガラスとかぶせるカバーガラスのすき間はその分大きくなり、大型のプランクトンも観察できる。
この時に顕微鏡(倍率は100~250倍)で確認できた生き物は、体長の倍はある長い触角のようなものを持っていた。図鑑などで調べてみた。ミジンコの一種であると思われるが、名前まではわからなかった。ケンミジンコの仲間かもしれない。小さな目が集まった複眼や胸脚なども確認でき、体の構造を観察できた。この小さな池の中に、無数の小さな生命が存在し、多様な環境の中で生きている。この世界を実感し、想像してみてほしい。
ミジンコから見えてくること
今回は、ミジンコを採取して観察する一つの方法を紹介した。採取を継続して行えば、動植物のいろいろなプランクトンに出会うことができるだろう。また、採取した日時や地点、水深、水温、水の色や透明度のほか、プランクトンネットを引いた回数、確認できた生き物の名前や個体数などを記録しておけば、新たな知見がなにか得られるかもしれない。
ミジンコの生活や体の構造を知ることによって、この池の中の食べるー食べられるといった食物連鎖、物質の循環、環境に適応した生存戦略、池の外の生き物や人間との関わりなどが見えてくる。そこから池を含めた地域、池の水が流れ込む河川の流域、そうした河川が注ぐ伊勢湾流域の生態系について考えてみることは、意義があるはずである。
ミジンコの採取は、池以外でも行える。例えば、川や水路のよどんでいるようなところや田んぼなどである。ここにもミジンコがいるかもしれない。そんなことを想像しながら近場の水がたまっているところを見て探し、あちこち散策するのは楽しい。日本には、100種ほどのミジンコが生息しているという。身近な環境でプランクトンネットを引き、採取できた微細な生き物を観察してみてほしい。きっと新たな視界が開けるだろう。