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なぜ今「プラスチック一括収集」? 名古屋のごみ資源化、変わる現場と紆余曲折の歴史をたどる

取材・文 関口威人
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2024年4月から、名古屋市のごみ分別が一部変わった。これまで可燃ごみだった「プラスチック製品(製品プラ)」が、資源扱いの「プラスチック製容器包装」と合わせて「プラスチック資源」として一括収集されることになったのだ。市民にとって分かりやすくなった一方、それまでの分別は何だったのか、一括収集によってどんな効果があるのかという疑問も残るだろう。一括収集されたプラスチックの行方を追い、紆余曲折をたどった名古屋のごみ処理の歴史を振り返りたい。

■続々と運び込まれるプラスチック「資源」袋

港区の工場地区の一画に、パッカー車が忙しく出入りする。大きな建屋の中で降ろすのは、青色で「資源」と書かれた袋。すでに車の倍ほどの高さまで積み上がっている。
「年末年始でたまっていた分もありますので、普段よりかなり多い量です」と、この事業所の責任者である神鋼環境メンテナンスプラスチック資源循環部の田中良征部長が案内してくれた。事業所には名古屋市内で一括収集されるプラスチック資源がすべて運び込まれ、1日最大約100トンが中間処理される。

搬入された資源袋はベルトコンベヤーに載せられ、機械で袋を破かれたら「トロンメル」という内部が回転する巨大な機械にかけられる。これは遠心力や筒状の「ふるい網」によって軽いものと重いものを選別する工程の一つ。金属類などの重いものを取り除き、軽いものを本来のプラスチック資源として次の工程に回す。

機械の後は人の手による選別だ。4本のベルトコンベヤーの横に作業員が3、4人ずつ付き、続々と流れてくるものの中から異物や汚れの付いた不適物を確認し、すばやく取り除く。異物として多いのはペットボトル(プラスチックとは別のルートで資源化されるべきもの)やアルミ製容器、携帯カイロ(冬に多いが鉄が含まれるため不燃ごみ)などのほか、ライターや注射器などの危険物もある。ホワイトボードに貼るボタン型のマグネットなど、磁石類も機械にくっついてしまうため厄介だ。しかし近年、特に困っているのはモバイルバッテリーなどの電池類で、次の圧縮工程で発火する恐れがあり、「絶対に入れないでほしい」と田中部長は強調した。

圧縮梱包の工程では、選別されたものを再び機械にかけ、1辺約1メートルのブロック状にする。それをフォークリフトで移動し、トラックに載せるまでが行政から委託されてこの事業所で行われる作業だ。その後は再商品化(リサイクル)事業者が引き取り、製鉄所の発電燃料としたり、化学原料にして再びプラスチック製品に利用したりする。

名古屋市内で収集したプラスチック資源袋を搬入するパッカー車=2025年1月13日、筆者撮影
収集した資源袋の中身を回転させ、遠心力や筒状の「ふるい網」で軽いプラスチックを選別する「トロンメル」という機械=2025年1月13日、筆者撮影
機械選別の後は人の手によって異物や不適物を選り分ける=2025年1月13日、筆者撮影
選別したプラスチックは1辺約1メートルのブロック状に圧縮梱包し、再商品化事業者に引き渡す=2025年1月13日、筆者撮影

■収集量は前年度から1割増えるも「大きな影響なし」

昨年4月からの一括収集によって、施設はこれまでの容器包装に加えて30センチ角以内のプラスチック製品も受け入れるようになった。素材としてはフィルム状の軽く柔らかいものだけでなく、バケツや洗面器のような比較的重く硬いプラスチックも含まれる。

名古屋市環境局によると、収集量は10月までの7か月間で前年度から9.5%(2023年4月〜10月のプラスチック製容器包装の収集量1万4833.42トンが、2024年同期はプラスチック資源として1万6243.75トンに)増えた。
これは、今まで可燃ごみとして捨てられていた製品プラの一部が資源として出されるようになったためとみられる。ただし市は今年度、最終的に14%強の増加を見込んでおり、年間を通した量や質をこれから分析していくという。

現場でも作業量の増大を見込んで人を増やし、稼働時間を2時間拡大するなどして対応しているが、「今のところ大きな影響はない」と田中部長。その上で「硬質のプラスチックが多くなれば機械が摩耗するが、そこは我々の方でしっかり整備していきたい。しかし、電池類や磁石類は本来受け入れられないもので、危険性を考えると看過できない。安全で品質の良いものをリサイクルに回すため、市民の皆さんにはさらに理解と協力をお願いしたい」と呼び掛けた。

異物として特に危険なモバイルバッテリーは「絶対に資源袋に入れないで」=2025年1月13日、筆者撮影
防犯ブザーなども増えているが、小型家電として専用の回収ボックスなどに入れるべきもの=2025年1月13日、筆者撮影
資源として出せるプラスチック製品の例=名古屋市の広報用チラシから
プラスチック資源の対象外の中で、特に注意が必要なもの=名古屋市の広報用チラシから

■「不燃」から「可燃」、そして“理想”の資源化へ

しかし、そもそもなぜこのような一括収集が始まったのだろうか。

直接のきっかけは、2022年4月に施行された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環促進法)」だ。海洋プラスチックごみ問題などを契機に、日本国内でのプラスチックの資源循環を一層促進する重要性が高まり、新しい法律によってプラスチック製品の設計から販売、排出、リサイクルまでの体制が整備された。

このうち「市区町村による分別収集・再商品化」については、容器包装リサイクル法(容リ法)に基づく処理ルート(容リルート)に、容器包装以外の製品プラを加えて収集できることになった。自治体の義務ではないが、愛知県豊明市や京都市など35の市区町村や広域組合が1年目からこの方式を採用。2年目の2024年度は全国約90の自治体に広がり、その中に一括収集を始めた名古屋市が加わった形だ。

しかし、実は今回の法制化の前に、名古屋市は同じことを市独自でやりたいと国に提案していた。今から17年ほども前のことだ。

2000年の容リ法完全施行を受け、名古屋市は政令指定都市として初めてプラスチック製容器包装・紙製容器包装のリサイクルに乗り出した。さらに2008年、当時は不燃ごみとして処理していた容器包装以外のプラスチック(プラごみ)も資源化する方針を決定。しかし、まだ法整備がされていなかったため、市は「構造改革特区」として特別に認めてもらおうと国に働きかけた。

ところが、この時点ではリサイクルの品質や費用負担面で課題が大きいなどとして、国は名古屋市の特区申請を却下。市は他の関係機関とも調整を続けたが見通しが立たず、翌09年の12月に「資源化断念」を決めた。

このとき、有識者による市の検討委員会は資源化に対する「次善の策」としてプラごみの可燃化を勧めていた。市独自の収集ではコストが高くつくことや、ごみ焼却工場が最新の設備に切り替わって耐久性や有害物質の除去性能が向上したこと、一方で当時、不燃ごみを破砕処理していた大江破砕工場(港区)でプラごみが原因の一つとみられる火災事故が発生したことも影響。2011年4月、名古屋市のプラごみは「不燃から可燃」へと分別が変更された。

以来、十数年が経つ中で国の方針が変わり、名古屋市の当初の“理想”が全国レベルで実現したのが今回の一括収集といえるのだ。

名古屋市のごみ処理・資源化の主な歴史=各種行政資料、新聞記事を基に筆者作成
2009年から稼働を始めた緑区の鳴海工場。当時、最新鋭のガス化溶融炉を備え、有害物質の除去性能などが向上したことがプラごみの「可燃化」を後押しした=2012年、筆者撮影

■費用負担や周知に課題、事業者や若者巻き込み前進を

では、プラスチック資源循環促進法の成立を受けて名古屋市はすぐさま動いたのだろうか。前述のように、そうではない。3年前の新法施行段階では、まだ市は一括収集の実施方法について検討中だった。費用負担が大きくなるという課題や、処理ルートに複数の選択肢があったからだ。

容リ法では、容器包装を利用した商品を扱うメーカーや小売店が実質的にリサイクル費用を負担する仕組みとなっている。しかし、新法では一括収集したプラスチック資源の中で、製品プラ分のリサイクル費用は市区町村が負担することになった。

名古屋市が今年度に見込んだ収集量の増加分14%強がすべて製品プラだとすると、そのリサイクル費用は約3億円に上る。国の交付金や特別交付税で負担増を一部カバーできる見込みはあるものの、資源化の理想の前に、市民の負担増という“現実”が立ちはだかる。

さらに、新法では容リルートだけでなく、再商品化事業者と自治体が連携し、国から認定を受けて再商品化する方法(認定ルート)もあることから、市は検討に時間を要した。最終的に早期の一括収集移行のため、従来通りの容リルートを活用することに決定。その上で、収集体制の調整、関係事業者や地域役員との調整、市民への周知にも期間が必要となり、施行から2年が経っての一括収集スタートとなったのだ。

一方でここ数年、人件費の高騰などでリサイクル費用の単価は急激に上がっており、今後の負担がどうなっていくかは見通せない。

市環境局資源循環企画課は「市民には分別を徹底していただくとともに、そもそもプラスチックをもらわない、使わないこともお願いしたい」と呼び掛けている。

市の「2R(ツーアール)推進実行委員会」委員長や一般廃棄物処理計画の改定に関する懇談会の構成員などを務めた椙山女学園大学現代マネジメント学部の東珠実教授(消費者科学)は、一括収集について「認知度や、効果の見える化がまだ十分ではない」と指摘。市民にとっては、背景が分からないまま分別の変更が知らされるだけになっていないかと懸念する。

「名古屋は1999年のごみ非常事態宣言を、行政と事業者、市民が一緒になって乗り切りました。全国に先駆けた2007年からのレジ袋有料化も、事業者に入る収益金を行政の環境活動に充てる『還元基金』などを通じて、市と事業者との一体感があったのも名古屋の特徴です」と東教授。

その上で「これまでは行政主導の面が強くありましたが、プラスチック問題は事業者が先行しないといけません。大手コーヒーチェーンがバイオマスプラのストローを導入するなどして牽引するのも効果的。また、今は若い人がフリマアプリやリユースショップを当たり前に活用し、モノを捨てなくなっています。そうした若い人たちをうまく巻き込んで『もったいないの一歩先』の、次のステージに進んでほしい」と提言した。

名古屋の“理想”は、みんなで達成すべきものなのだ。

名古屋市のプラスチック発生量(家庭系)。令和元年(2019年)からやや増加傾向にある=名古屋市第6次一般廃棄物処理基本計画から
ごみに含まれるプラスチックの量(令和4年度実績)。家庭系ごみの約12%を占めるプラスチックは約8割が資源化可能=名古屋市第6次一般廃棄物処理基本計画から
名古屋市の2R推進実行委員長などを務める椙山女学園大学の東珠実教授=2025年1月、筆者撮影