ENVIRONMENTALCOLUMN 環境情報を知りたい方/環境コラム
愛・地球博から20年 理念引き継ぎ、自然を愛する「森の案内人」たちの思い
2005年に愛知県内で開催された愛・地球博(愛知万博)から今年で20年。あの半年間の会期中、名古屋からリニアモーターカー「リニモ」に乗って長久手や瀬戸の会場に行った人は少なくないだろう。
環境問題について考えさせられる舞台となった会場跡地の「愛知・地球博記念公園(モリコロパーク)」。一部はスタジオジブリ映画のテーマパーク「ジブリパーク」として生まれ変わっているが、20年前と変わらぬ自然を体験する環境教育も続いている。それに携わる「インタープリター(森の案内人)」たちの思いから、万博の意義と環境のこれからを考えたい。万博20周年記念事業「愛・地球博20祭」の情報もお伝えする。
■自然の「かたち」探しながら森を学ぶ
「ジブリの大倉庫」や「どんどこ森」を抜け、モリコロパークの南エリアへ。木々が開けた一画に、古い木造校舎のような2階建ての施設「もりの学舎(まなびや)」がある。
この施設は万博開催時、「森のビジターセンター」として自然体感プログラムの受付や環境省の展示スペースに活用された。「プロ」のインタープリターと公募で研修を積んだインタープリターが万博の来場者を森に案内。ツアーや体験工房などのプログラムに計約34万6000人が参加したという。(愛・地球博閉幕後データ集)
閉幕後は愛知県の環境学習施設として民間に運営委託され、自然体験のプログラムが引き継がれている。現在は主に小学生以上を対象にした「インタープリターと歩く もりのツアー」や3歳以上の幼児を対象にした「インタープリターと もりに遊びにいこう!!」が土日祝日に行われている。
「ようこそ。私はポールです」
「かわいちゃんです。よろしくお願いします!」
2月のある日曜日に開かれた「もりに遊びにいこう!!」のプログラム。インタープリターには全員ニックネームがあり、「ポール」こと細江真澄さんと「かわいちゃん」こと河合祐子さんが、もりの学舎の横の小道から参加者を森に招き入れた。
決して険しい山道ではないが、念のためスズメバチと、ある木に気を付けてほしいと河合さんがイラストを見せながら説明した。「触るとかゆくなる木、わかるかな?」。正解は「ウルシ」。この道沿いには結構、多いのだという。
幼児向けのプログラムなので、やさしく遊びながら森を学ぶ。その工夫の一つが「かたち鑑定団」。紙に線で描いた「かたち」を、森の中から探してみようという遊びだ。河合さんは最初に「これはどうかな?」と、まっすぐな線が何本も引かれた紙を見せた。「縦でも横でもいいよ」と紙を縦にして、まっすぐに茎の伸びた草と並べる。なるほどと、ススキの穂をつまんで「これ?」という子もいれば、木の樹皮を指さして「これだ!」という子もいる。
次の形は「◇(ひし形)」。ちょっと難易度は上がったが、子どもたちはひし形の石や葉、あるいは小枝を組み合わせてひし形を作っていた。
続いての遊びは「万華鏡」。好きな葉っぱや小石をキャップに詰め、特製の筒にセットして中を覗くと、不思議な模様になって見える。筒を回転させると次々に形が変わる。集めた葉の形や色によって、まさに千差万別。「これは大人も楽しめますね」と保護者からも好評だ。こうして約35分間のプログラムはあっという間に終わった。
■「自然に触れられる身近な場所」守り続ける
河合さんは長久手市から近い「みよし市」在住だが、万博開催時はこの森まで来たことがなく、自然に対する関心や知識もほとんどなかったという。だが2015年ごろ、ふとインタープリターの活動を知り、養成講座を受けたところ「こんなに近くに自然豊かで楽しめる場所があるなんて」と感動した。以来、インタープリターの第3期生として10年間活動を続けている。
「最初は大人向けのプログラムが中心でしたが、やがて子ども向けのプログラムを始めるようになり、試行錯誤を重ねて今のやり方になりました。自然を楽しむための入り口になればと思ってやっています」と話す。
「ポール」こと細江さんは名古屋市在住。定年後、自然観察や湿地の保護活動などに取り組み、2022年からインタープリターの5期生として活動している。「子どもたちを相手に自然の中で遊べないかと思って応募しました。保育園や小学校にも出張で活動に行くことがあり、とても楽しいですよ」と充実した様子だ。
インタープリター養成講座は数年に1度のペースで開かれており、今年度も昨年10月から今年2月まで全6回の講座があった。参加者は屋内での座学と屋外での実地研修でインタープリターの役割や環境学習の方針などについて学ぶ。これまで6期で120人以上が受講し、現在40人ほどがインタープリターとして活動している。
万博当時からスタッフを務め、今もNPO法人「もりの学舎自然学校」代表理事としてインタープリターを率いる水谷央(ひさし)さんは「養成講座の受講者も最初の頃は万博に関わっていた人や自然観察指導員など、ある程度経験のある人が多かったですが、最近は主婦や保育士なども来てくれるようになり、幅が広がりました」と話す。うまく人材が入れ替わることで、長く活動を継続していくのが理想だという。
「この20年で、世間では自然に触れられる身近な場所は減ってきています。でも、ここに来たらいつでも自然に触れられ、面白いことができて、楽しいインタープリターがいる。そんな場所を守り続けるとともに、それぞれの地域でこういう場所をたくさん作ってもらえたらいいなと思って活動しています」
水谷さんのこんな思いと行動が、まさに万博の理念を伝え続けることであるといえるだろう。
■万博20年に合わせた「春休み特別企画」も
もりの学舎では、毎年恒例の「もりの学舎まつり」を3月16日(日)11:00〜15:00に開く(少雨決行)。小学4〜6年生の「キッズインタープリター」が企画した自然体感プログラム「キッズインタープリターデビュー」をはじめ、園内を散歩しながら自然や環境のクイズにチャレンジする「ナゾトキの森」、身近な自然を使った遊びや工作を体験できる「ヒローバ・まなびーや」などが行われる。いずれも参加無料。
キッズインタープリターデビューは事前申込制、先着順。3月13日(木)までにあいち電子申請・届出システムの申込フォームから申し込みを。その他のプログラムは当日受付。参加者にはオリジナルミニタオルやシール、ミニ絵本などのプレゼントもある。
また、愛・地球博20祭連携イベントとして3月22日(土)、23日(日)、29日(土)、30日(日)に「もりの学舎春休み特別企画」を実施。リサイクル素材や自然物を利用した工作教室「あそび工房」(10:30〜15:00の間で随時、各日先着60人、3歳以上、小学生未満は保護者同伴)、植物を擬人化する自然遊び体験「木へのインタビュー」(10:30〜15:00の間で随時、各回10人)、森に隠れた生き物のイラストを探す「いきものことばみっけ」(10:30〜15:30の間で随時、定員なし)などのプログラムが行われる。いずれも当日受付で、参加無料。
問い合わせは、もりの学舎(電話 0561-61-2315 ※9:00〜17:00、FAX 0561-61-2328、電子メール support@mori-manabi.org)へ。
愛・地球博20祭は3月25日(火)から9月25日(木)まで、園内各所でイベントや展示が行われ、万博の意義や成果を振り返り、未来につなげる機会とする。
あいち電子申請・届出システムの申込みフォーム
もりの学舎春休み特別企画
愛・地球博20祭
愛・地球博閉幕後データ集