ENVIRONMENTALCOLUMN 環境情報を知りたい方/環境コラム
若者とSDGsと「8年後のなごや」
名古屋でもSDGs(持続可能な開発目標)への関心が高まっている。その中心にいるのは中高生や大学生世代の若者たちだ。コロナ禍で制限された学生生活を送りながら、自分にできることは何かを考え、社会とのつながりを探る。その共通のキーワードがSDGsであるらしい。目標達成期限の2030年には大人になっている学生たちは、どんな未来を思い描いているのだろうか。
(※学年や肩書きは2022年3月時点)
■「身近なところからできる」中高生が手応え
名古屋市営地下鉄「御器所」駅近くの閑静な住宅街にある名古屋国際中学・高校。学生同士の会話にも英語が交じるこの学校で、SDGsに取り組む生徒たちによる部活動がある。その名も「SDGs未来倶楽部 Sus-Teen!(サスティーン)」。
「なんだか戦隊モノみたいでカッコいいでしょう」と顧問の黒宮祥男教務主任はにんまりと笑う。名称は生徒たち自らが考え出したのだという。
授業でSDGsを学んだ生徒7人ほどが有志で立ち上げ、活動内容も自分たちで決めてきた。はじめは、学校に転がっていた古いテニスボールを何かに再利用できないかと話し合った。採用したアイデアは「植木鉢」。ボールの上部を切り、土を入れてタネを植えればピョコンと芽が出る。かわいくてエコ。「SDGsは身近なことからできる」と、当時のメンバーたちは手応えを感じた。
文化祭では大量に出るごみをきちんと分別すると景品がもらえる「ガチャガチャ」を作った。「サスガチャ」と名付けて改良を重ね、今はイベントなどで来場者が自分に関心のあるSDGsのゴールを選ぶと景品が出る4代目が活躍している。
こんな楽しげな活動が仲間や後輩を呼び寄せ、部員は中・高合わせて40人近くに。活動も校外に広がっていった。
古着を集めて大手アパレルメーカーに寄付する活動から始まり、えび菓子メーカーやカレーうどんのチェーン店とのコラボが実現。これまで捨てられていた甘えびの頭をペーストにし、うどんの端材も練り込んで食品ロスを減らしながら、おいしさもこだわった「サステナブルえびせんべい」の開発に携わった。
■企業とも次々にコラボレーションが実現
岐阜県の陶磁器卸し業者には大量の「おちょこ」が余っており、使いみちに困っていた。その利用方法を考えてほしいと頼まれた生徒たちは業者に出向き、ほこりをかぶりながら倉庫を整理。おちょこを見るのは初めてという生徒がほとんどだったが、その「かわいい」形を生かして「キャンドル」にできそうというアイデアが生まれた。
さっそく200個ほどのおちょこを名古屋に持ち帰るとともに、ろうそく業者を探して相談。東京の業者が趣旨に賛同して、名古屋までろうそくの作り方を教えに来てくれることになった。
業者にならって古いろうを溶かし、一つ一つ磨いたおちょこにろうを流し込む。芯を立てて火を灯すと立派なキャンドルに。おちょこの形や絵付けの模様、色とりどりのろうとの組み合わせで、世界にたった一つの商品にもなる。「おちょんドル」と名付けて地元のイベントで販売すると大好評だった。
ペットボトルからリサイクルされた糸を使った靴下を作るファッションブランドとのコラボでは、「漬け物の残り汁」を染料にするアイデアを提案。「sustainableペトックス」としてインターネット上で販売されている。他にも地元の公園の森林整備や、岐阜県での間伐体験にも参加。「思いついたら即実行」の合言葉で、生徒たちはアクティブに動く。
先月12日、文科省などが主催する「持続可能な未来への対話セッション2022」が同校を会場に開かれ、行政や企業の担当者が見守る中、サスティーンも活動を発表した。部長の鬼頭美優和さんは「今まで作ってきた商品を、今度はどうやったら広めていけるんだろう」と考えながら「おちょんドル」や「ペトックス」などの商品づくりを紹介。「自分たちもアップサイクルの仕事をしている」という企業の担当者とも新しくつながった。
「こうして人と対話をして、また輪が広がっていくことが楽しい」と鬼頭さんはSDGsの醍醐味を話す。
輪の広がりは先輩から後輩へも。鬼頭さんと一緒に発表した高2の中根隆希さんは「学校見学会などでサスティーンが紹介され、珍しい部活だと思って新入生が来てくれるようになった。SDGsのゴールは身近なところにあるんだよと伝えたい」と話す。
この春、新しいメンバーを迎え入れるサスティーンからは、また次々とアイデアの芽が出てきそうだ。
■オンライン時代ならではの交流も盛ん
高校から大学にかけて、SDGsに関わる活動を発展させているのが中京大学(昭和区)1年の油口琢磨さんだ。
油口さんは高3の頃に政治や社会問題に関心を持った。でも、一般的な若者はそれらに興味がないと言われる。なぜなのかと思っていたとき、SDGsを知った。
「これなら、若者が社会に関心を持つきっかけになる」
そう感じてSDGsを周知するためのサークル「AFF(Action For Future)」を立ち上げたのが2020年5月。コロナ禍で全国に非常事態宣言が出た頃だった。まずは、コロナ禍で自分たちに何ができるのかを考えるオンラインミーティングを企画。県内の高校生25人に加え、東海地方の若手市議らにも参加を頼んでオンラインで意見を交わした。
これを皮切りに、オンラインイベントだけでなく、実際の商業施設でSDGsのクイズを出すイベントなども開く。大学入学後は同学年の友人を誘って15人ほどで活動を継続。SNSで情報発信をしながら行政や企業へもアプローチをした。
そんな中、ある企業担当者から住宅展示場でのイベントを紹介され、昨年11月に親子向けの射的や魚釣りゲームのコーナーを設けた。
「魚釣りゲームは、魚ではなく海の『ごみ』を釣ってもらうことで海洋プラスチックの問題について考えてもらった。今は小学生の方がSDGsをよく知っている。こうしたゲームで子どもたちを通して家族でSDGsの話をしてもらえれば」と油口さんは狙いを明かす。
南山大学でSDGsに取り組むサークルは「CLOVER(クローバー)」。代表の本田光さんは油口さんと同様、日本や世界の課題をどう解決すればいいか、どう「自分ごと」にすればいいかを考えていたときにSDGsが「まさにこれだ」と思ったという。
本田さんはまず「それを今の中高生に知ってもらいたい」と考えた。「中高生のときに“もやもや”していた自分が、SDGsを知っていたら変わっていたかもしれない」からだ。
昨年8月にCLOVERを立ち上げ、友人や他のサークルの学生にも呼び掛けて約40人が集まった。やはりSNSを中心に情報発信をしつつ、SDGsに関心を持っていそうな中高生を見つけたら「意見を聞いてみる」のだという。そうして実際につながった浜松市の私立中・高生と活発に意見交換を続けている。場所を飛び越えるオンライン時代ならではの交流といえるだろう。
■8年後は「世界で一番SDGsが進んでいる街に」
つながりは中高生にとどまらず、他大学や企業、子ども食堂などにも広がっている。今年は名古屋市や安城市で市民向けイベントに参加するほか、神奈川県茅ヶ崎市の青年会議所とのコラボも実現しそうだという。
本田さんは「SDGsはみんなバラバラにやっていてもダメ。CLOVERが中高生と大学生、そして社会人をつなぐ架け橋になり、世代を超えて課題解決をしていきたい」と意気込む。
彼らのような若者とSDGsの関係をどう見ればいいのだろうか。
名古屋を拠点に若者のSDGs活動を支援する一般社団法人「SDGsアクションラボ」代表の深田英揮さんは「若い世代は就活などに不安を抱えながら、SDGsを通じて未来を変えようと考えている。一方で企業や地域も、将来の働き手であり、消費者でもある若者と結び付きたがっている」と分析する。
その上で、彼らが社会とつながる「結び目」がもっとあっていいのだという。深田さんはSDGs達成期限である2030年までに「学生15万人、企業3000社、自治体500」のネットワークをつくる目標を掲げ、セミナーやオンラインイベントなどを続々と企画中。油口さんと本田さんは今月下旬からアクションラボの「執行役員」に就き、学生の立場からネットワークづくりに携わる予定だ。
目標が達成されるはずの「8年後のなごや」はどうなっているだろうか。2人はこう口をそろえた。
「中高生や大学生がやりたいと思ったことを、大人が若者の声をよく聞いて、世代を越えた協力で実現させられる。そんな仕組みを、なごやが先頭を切って作っていってほしい。そして8年後は『なごやって、SDGsが世界で一番進んでいるよね』と言われる街になるように」
皆さんには、どんな未来が見えるだろうか?