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【開催報告】地球環境学2022 第5回 「私たちの住む地球・めざすべき地球と社会」

  • レポート

 地球環境学2022の第5回は9月10日(土)に
日本福祉大学国際福祉開発学部 特任教授 千頭 聡(ちかみ さとし)氏をお招きし開催いたしました。

 これまでの地球環境学では「地球温暖化と気候変動」、「世界の森林問題」、「生物多様性の減少」、「水資源の減少・枯渇」をテーマに専門家をお招きし講演をしていただきました。
 今回、千頭氏には地球環境学の第1回から第4回までを概観しつつ、さらに持続可能な社会に向けての取組み方をお話ししていただきました。
 さらに千頭氏はご自身が何度も通ったラオスでのご経験から、実際にその地で暮らす人々とそこにある文化が環境に関わっていることを話してくださいました。

ラオス北部の焼畑
 この地域は雨期と乾期があり、その気候を利用して焼畑が行われてきました。
 乾期に下草刈りをし、その後火入れをし、雨期前に作付けをします。焼かれた草は灰となり、その灰はカリウムなどを含む肥料となって、作物にめぐみを与えます。
 「伝統的な焼畑はもともと環境と一体となった農業だったと言える」と千頭氏。
 焼畑は2年ぐらいで場所を移動し、そして15年ぐらい経つと元の場所に還ってくる。15年経った土地は森が再生され、そこでまた焼畑をする。昔は、暮らしの規模にあったそうした焼畑を行ってきた文化があったとのこと。その地に暮らす少数民族が焼畑の状況に応じた言葉で森を表現していたという先生の現地調査からも、焼畑は人々の暮らしに根付いた営みであったことがうかがえます。

 ところが、現地では気候変動の影響により、ここ10年、雨期の始まりが不安定になっているそうです。現在では人口の増加、近代化などあらゆる状況により変化が生じ、政府は同じ場所でしか焼畑をしないように規制しました。同じ場所での焼畑では森林の再生はならず、焼いた土地には地下茎のある植物が群生し、かえって土地を耕しづらい結果を招き、焼畑は環境的に歓迎されない状況になっているそうです。
 環境はその土地に暮らす人々の文化ともつながり、また影響を与えていることを千頭氏は教えてくださいました。

なごや環境ハンドブックからのお話
 続いて「なごや環境ハンドブック」の章立てからお話しがありました。
 ハンドブック2-7(P35~)「有害化学物質による汚染」のお話。例えば、バッテリーと鉛。かつて廃バッテリーが日本から中国やフィリピンに大量に輸出されていたそうです。バッテリーに含まれる鉛は取り出してリサイクルできる貴重な金属ですが、鉛をのぞいたバッテリーの廃液は昔はそのまま川に捨てられていたとか。そのせいで川が酸性化するといったことが起こっていたそうです。
 今では、バーゼル条約(正式名:有害廃棄物等の越境移動およびその処分の規制に関する条約)という条約が(1992年発効)あり「有害化学物質は国を超えて、移動させてはいけない」ことが決められているとのこと。
 ハンドブック2-9 (P41~)「プラスチックによる海洋汚染」についてもお話しがありました。2050年までに、海にあるプラスチックの重さは魚の重さよりも重くなるという研究成果もあるようです。深刻な問題です。
 藤前干潟のごみ拾いに参加すると、大きなプラスチックごみだけでなく、細かくなったマイクロプラスチック(5mm以下の微細なプラスチック)が大量に拡散しているのを見かけます。あまりに細かいので回収が大変です。魚や鳥などもこうしたものをエサと間違って取り込んでしまったりする問題が生じています。今後、私たちはプラスチックの使用にも気を配っていく必要があります。

日本のSDGs達成状況

 SDSN(国連持続可能な開発ソリューションネットワーク)が、世界163カ国のSDGsに関連する取組み状況を分析した2022年次報告書によると、日本は、19位となっています。
 これは先進国の中ではかなり下とのこと。千頭氏によれば、日本は毎年順位を下げているとか。
 さらに先生は、日本にとって特に取組んでいかなくてはならない目標番号もあげてくださいました。それは、目標の5「ジェンダー平等を実現しよう」、12「つくる責任 つかう責任」、13「気候変動に具体的な対策を」、14「海の豊かさを守ろう」、15「陸の豊かさも守ろう」、17「パートナーシップで目標を達成しよう」。なごや環境大学の講座紹介冊子「ガイドブック」裏表紙にはSDGsの目標と各タイトルが載っていますのでご参照ください。
 例えば目標5「ジェンダー平等を実現しよう」。身の回りに思いつく事例はありませんか。性差や働く女性が増える社会の中で誰もが安心して過ごせる環境について、世界に比べ日本はどうなのでしょうか。千頭氏はデンマークの女性首相の働き方を例にあげ、問題提起されました。様々な課題がありそうです。

私たちのSDGs目標
 そして、次に千頭氏は「持続可能な社会と地域をどうやって実現していくか」というスライドを提示されました。
 地球に暮らす私たち。国があり、さらに住む地域があり、そこに脈々と受け継がれる文化もあります。そこで生活する私たちはそれぞれのつながりを意識しつつ、SDGs目標に向かって、自分ごととして身近にどう感じ、行動に移すかが大事です。これは地球環境学の全5回を通して講師のみなさまが共通しておっしゃられたことではないでしょうか。
 そこで参加者のみなさまにSDGsの17の目標が記載されたワークシートが配られました。「私は17の目標に関わってどんな事ができそうかなあというのを考えてみてください」と千頭氏。ワークシートタイトルには、「地球と地域、暮らしと世界のつながりを意識して」と書いてありました。各目標に対し、自分ごととして何ができるのか、シンキングタイムです。もちろん行動できる目標についてのみでもOK。
 どんなに専門的なお話を聞いても、それを聞いて、「じゃあ、自分には何ができるのか、地域では何ができるのかを考えて、そして実際にできることを実行する」、こういったプロセスにつなげるとても大切なシンキングタイムだと思いました。

 自分が考えたことや思いを発表してくださった方も何人かいらっしゃいました。
 ある人は「7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」について、「選挙の際、選挙演説を聞きに行って候補者の方にエネルギー問題についての考えを聞く」。
 また、ある人は「14:海の豊かさを守ろう、15:陸の豊かさも守ろう」について、「知らないことが多いので、できるだけ講座に出ようかと思う」と話してくださいました。講座への参加、大歓迎です。千頭氏も「素晴らしいです。そして、さらに講座で学んだ内容を友達に広めて欲しい」とおっしゃっていました。その方も講座の存在や内容を伝えていこうとされていらっしゃるようでした。他にも発表してくださる方が何人かいて、みなさま、少ない時間に自分ができることをいろいろと考えてくださっていました。 

 「地球のことは私たちの毎日の暮らしだったり、生活と必ずつながっているので、地球のことを考えることが、わたしたちの生活を見直すことにもつながります」と千頭氏。
 その言葉は私たちに、「身近にできることがあるよ、探そうよ、行動していこうよ」とやさしく、温かく自分ごとへいざなう呼びかけのようでした。
 そして、それぞれが聞いた環境についての講演や思いを周囲の人と語り合うことの大切さを伝えてくださいました。

 千頭氏、講座に参加してくださったみなさま、ありがとうございました。
 今後もなごや環境大学ではみなさまと共に学ぶ講座を充実させていきますのでどうぞご期待ください。